はるばる店を訪問すると12時半頃なのに準備中の札。ダメ元でもう終わりか聞いてみると「とりあえず座ってて」との事。どうやら夜の部の仕込みの分を提供してくれるらしく、ランチセットを注文。ご主人の気まぐれか、気に入られたのか、「冷やし中華もおいしいから半分づつ出してあげようか」と言うので言われるがままお任せに。そして出てきたのは写真のとおり、半ラーメン、半冷やし中華、肉ニラ炒め、半ライスと何とも豪華な内容。これで900円というのだから驚き。 まずはラーメン。スープはあっさり系の中華スープ。特別な旨みが強いとか、惹かれる味付けとかではないのだが、どこか懐かしくて飲み干したくなる味。麺は自家製の手打ち麺。ムチムチとした食感ですばらしいコシ。口の中で踊るといっても過言ではない食感が最高。そして手打ちならではの不揃いの太さが変化を生んでたまらなく好き。チャーシューは煮豚ではなく吊るして焼かれた焼き豚。そのため香ばしくてムッチリとした食感。味付けは肉本来の味と香ばしさが伝わるように若干薄め。本日のランチセットは肉ニラ炒め。オイスターソースなどの旨みたっぷりの味付けで炒められた柔らかい肉とニラ。味付けは濃い目。最初のうちはそのまま食べて、最後のほうに店主の言われたとおりラーメンに投入。するとスープに旨みが加わって、あっさり系のスープがまた一味違った旨みの強い味に変化。これもまた美味し。 次に冷やし中華。麺は同じく自家製の手打ち麺で、こちらは水で締められていて、また違った食感と弾力を楽しめる。味付けはいたってシンプルな酸味の利いた醤油味。具はチャーシューの刻んだものとキュウリと玉子焼き。玉子焼きは細く切られておらず、盛り付けも雑だがその辺はご愛嬌。冷やし中華単体の味としては並だが、麺を純粋に楽しむには良いかも。 両国のちょっと入った住宅街にあり、概観は一見目立たない小汚い中華屋っぽい感じ。店主と奥さんの二人で切り盛りして50年以上続けているという老舗店。非常に感じのいい夫妻で、本日最後の客だったこともあり、食べ終わった後に店主とかなり話し込んだ。その中で麺を持ってきて肘で潰させて弾力があることを確かめさせてくれたり、ワンタン用の生地を触らせてくれたり、チャーシューをつまませてくれたり、味付けしてないスープを飲ませてくれたり、と色々とこだわりを説明してもらった。それが単なる自慢や押し付けなんかではなく、本当に楽しそうに語るのでこちらも楽しくなってくる。準備中となっているのに入れてくれたのは「遠方から来てくれた人を断るなんて、そんな可愛そうなことは出来ないから」らしい。「次回来るときは電話してくれれば何時でも用意して待ってるから」と、何とも有難い言葉をかけてくれた。一見の客に対してここまで言える店は他にあるだろうか。この店主は自分の味を求めて食べにきてくれるお客さんを本当に大切にしているのだと感じた。最後に店先で握手をして別れたが、流石に毎日手打ちの麺を打っているだけあって、その手は分厚くて力強かった。最近は体を壊してかなり無理をしているようなので、体には十分に気をつけて末永く頑張って欲しいと思う。 |